太陽暦と太陰暦 (1) 太陽暦の概要と歴史

海外旅行では、太陰暦に由来した旧暦が根付いている国が多いことに気がつくでしょう。
『旧暦をベースにしているので、毎年祭りの日程が違う』などの根本原因を理解するため、今回は暦とその背景について簡単に学んでみます。

【目次】
1. 太陽暦とは
2. エジプト暦とユリウス暦
3. グレゴリオ暦
4. 将来の太陽暦

1. 太陽暦とは

太陽暦は、地球から見た太陽の動きを元に1年を決めた暦です。
言い換えると、太陽から見て地球が太陽の周りを1周する時間を1年としています。

これを地球の公転周期とよび、ここでは記号Teとすると下記のようになります。

Te=365.2422日

小数点以下は延々と続くので4桁で切りました。
このように、年と日の関係はきれいになりません。
そもそも、地球の自転に由来する1日の長さと、地球の公転に由来する1年の長さは、それぞれが地球の自転と公転という独立した自然現象が元になっているためです。

太陽暦は太陽の動きを元にしているものの、上述のように1年の長さがきれいな日数で表せないため、原始的な太陽暦から現代に至るまでいくつかの改訂がありました。
大まかには4000年以上前のエジプト暦、紀元前46年のユリウス暦・1582年のグレゴリオ暦です。

順を追ってみてみましょう。

2. エジプト暦とユリウス暦

古代エジプトの農耕では、ナイル川の定期的な氾濫は養分を含んだ土壌を運んでくる点で非常に重要でした。
その氾濫の周期を知るため、紀元前2000年よりもはるかに早い段階で1年を365日としていたとされます。

この段階の暦をエジプト暦と呼びます。
但し、実際の1年が365.2422日であることを考えると、エジプト暦の誤差は1年で0.2422日になり、誤差が小さいわけではありませんでした。

エジプトではその後も天体の観測が続き、地球から見ると太陽の次に明るい恒星であるおおいぬ座のシリウスと太陽の位置関係から、1年間が365.25日であることに行き着きました。
おおいぬ座のシリウスは、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のベテルギウスと共に冬の大三角として知られる星です。

そのように1年が365.25日に修正されたエジプト暦ですが、紀元前46年にはローマのユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)がローマの暦へ採用しました。
1年を基本的に365日としながらも4年に一度の閏年を入れて平均365.25日としたこの暦はユリウス暦として知られます。
誤差は1年に0.0078日ほどで、閏年を入れないエジプト暦に比べると30分の1以下の誤差になりました。

ユリウス暦をもとに4世紀、春分の日が定められました。
キリストの復活祭は春分の日の後に迎える最初の満月後の日曜であるため、その意味でも暦の規格化は重要だったのです。

3. グレゴリオ暦

エジプト暦に比べると劇的に誤差が減ったユリウス暦でしたが、それでも真の1年365.2422日が365.25日で近似されていることになるため、年あたりの誤差0.0078日は長くユリウス暦を使ううちに蓄積していきました。

実際、4世紀に3月21日と定められた暦上の春分の日は、昼夜の時間が一致するという自然科学上の春分の日と比べて、16世紀には10日ほどずれてきました。
1年当たりの誤差はわずか0.0078日ですが、1000年単位で考えると1週間以上のずれとして顕在化してきたわけです。

そこで1582年、教皇グレゴリウス13世は4年に1回の閏年を400年に97回に減らし、暦のずれを修正することにしました。
もう少し噛み砕くと、400年の間の閏年を100回から97回に減らすということです。

400年間の間の閏年をどう設定するか考えて見ましょう。
まず、97を次のように表現してみます。

97=100-4+1

さらに、これを400で割ってみましょう。

97/400=1/4-1/100+1/400

左辺は『400年間に97回の閏年を設けること』を表すと解釈すると、右辺は『4年に1回を閏年にするが、うち100年に1回閏年としない。しかし、さらにそのうち400年に1回閏年にする』と意味づけられます。

具体的には、

①4の倍数の年を閏年とする
②例外として、100の倍数の年は閏年にしない
③但し、400の倍数の年は閏年とする

といったアルゴリズムで閏年の判定を行うことにしました。

こうして得られた暦は、1年の平均の長さは365.2425日です。
400年間に97日を余分に挿入するためです。

365+97/400=365.2425

この暦をグレゴリオ暦と呼び、現代でも用いられている暦となります。
実際の1年の日数は365.2422日ですから、この暦を用いる誤差は1年当たり0.0003日です。

つまり、3000年以上経たないと誤差が1日にも満たないという精度です。
そのため、16世紀に制定された暦ながらも現代において使用に耐えうるものとなっています。

余談ですが、法王グレゴリウス13世はグレゴリオ暦制定の3年後、1582年に日本の天正遣欧使節団と謁見しています。
しかしながら、日本にグレゴリオ暦が導入されたのは約300年後の1873年でした。
実際の謁見よりも思想や技術の伝播が大幅に遅いという興味深い例だと思います。

4. 将来の太陽暦

ここからは完全に算数の問題ですが、より精度の高い暦を作るためにはどうしたらよいか考えてみます。
グレゴリオ暦は、真の1年365.2422日の端数部分である0.2422日を次のように0.2425日として近似しているのでした。

0.2425=1/4-1/100+1/400

この意味は前述の通り、『4年に1回を閏年にするが、うち100年に1回閏年としない。しかし、さらにそのうち400年に1回閏年にする』ということです。
近似値0.2425は真の値0.2422よりもおよそ3×10^(-4)の程度大きいため、そのオーダーかつ『きりのいい数』を減じる、という考えに至るでしょう。

ここで言う『きりのいい数』とは、上式右辺第3項で『400年に1回は閏年にする』という例外処理を設けているため、この処理を減らせる数が良さそうです。
つまり、ここまでの考察から

・400の倍数の年を閏年から外す例外処理をする
・減らす度合いは10^(-4)のオーダーとする

ということが言えますので、これを満たす数を準じ考えましょう。

まず、1/800では明らかに10^(-3)のオーダーなので不適当です。
続いて1/1600では10^(-4)のオーダーではありますが、およそ6×10^(-4)なので大きすぎます。

さらに1/3200を考えると、これは約3×10^(-4)なのでちょうど良さそうです。
以上の通り目処が立ちましたので実際に計算してみますが、非常に良い精度になりました。

1/4-1/100+1/400-1/3200=0.2421875≒0.2422

これを明文化すると次のようになります。

①4の倍数の年を閏年とする
②例外として、100の倍数の年は閏年にしない
③但し、400の倍数の年は閏年とする
④さらなる例外として、3200の倍数の年は閏年にしない

グレゴリオ暦では約3000年毎に1日の誤差がありましたが、新たなルール④を加えることで誤差はどうなるか評価してみます。

これまでは真の1年の日数を365.2422日と表記してきましたが、もう少し細かく記載すると約365.2421894日です。
一方、新ルールを適用した1年は365.2421875日でした。
つまり、誤差は1年につき約0.00002日となりますので、約50万年につき1日の誤差となります。

グレゴリオ暦に代わる精度の高い暦が必要になるほどの将来には、もはや人類が地球で暮らしているのかも解りません。
暦の理解の延長上にある頭の体操として考えてみました。

 

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