太陽暦と太陰暦 (3) 太陰太陽暦の概要と歴史

これまで、太陽暦と太陰暦についてそれぞれの成り立ちを見てきました。
今回は、太陰暦をベースにしながらも太陽暦に寄り添うことで成立した太陰太陽暦を取り上げます。

【目次】
1. 太陰太陽暦とは
2. 太陰暦の原始的な修正
3. 太陰暦の発展的な修正
4. 現代に残る太陰太陽暦
5. 暦のまとめ

1. 太陰太陽暦とは

太陰太陰暦が基本としているのは太陰暦です。
太陰暦とは地球から見た月の満ち欠け、つまり地球から見て月が地球を1周回る時間29.5306日を1ヶ月の基準とし、12ヶ月間を1年と定めた暦でした。

その結果、1年は354日ないし355日となります。
季節により日の出や日の入りの方角が1年という比較的長い周期で少しずつ変わる太陽よりも、約30日で形が周期的に変化する月の方が観測が容易であるため、歴史の早い段階で時間軸の基準になりえた事は想像に難くありません。

しかし、季節を司る地球の公転とは独立した自然現象である月の公転を基準としていることで、大きな問題も発生することとなりました。
1年を365日ないし366日としている太陽暦と1年につき10日以上の差異が生じ、太陰暦のみを用いていると暦と季節とずれてしまいます。
そのため、農業に使えないという大きな問題があったわけです。

なお、現在の太陽暦は16世紀後半に導入されたグレゴリオ暦で、1年を平均365.2425日としています。

太陰暦を修正し1年の日数を太陽暦に近づけることで、農業に使用できる暦を作るという発想に至る流れは自然でした。
このような考え方の太陰暦を特に、太陰太陽暦と呼んでいます。

2. 太陰暦の原始的な修正

太陽暦の標準的な年間日数は365日、太陰暦の標準的な年間日数は354日であるため、1年で11日のずれが生じます。
単純に考えると、3年の間に太陰暦の方が33日間分だけ太陽暦よりも短くなってしまいます。

よって、この間に太陰暦では1ヶ月を追加することで誤差を少なくすることができます。
太陰暦で3年につき1ヶ月の閏月を入れる場合の誤差を考えてみます。

まずは、太陰暦の3年につき1ヶ月の閏月を入れる場合の総日数は下記の通りです。

29.5306日×(12ヶ月×3年+1ヶ月)=1092.6322日

一方で、太陽暦の3年間の総日数は次のようになります。

365.2425日×3年=1095.7275日

閏月を入れない場合は3年間で33日の誤差でしたが、この修正による太陰太陽暦では約3日間まで少なくなりました。
しかし、逆に言えばまだ1年につき約1日の誤差があり、精度が高いとは言えません。
整数の範囲で考えると下図のようになります。

もっと精度が高い修正はないものでしょうか。

3. 太陽太陰暦の発展的な修正

より精度を高めるため、まずは太陽暦と太陰暦の1ヶ月の日数を考えてみましょう。
太陰暦の1ヶ月は29.5306日でした。
一方の太陽暦(グレゴリオ暦)は1年が365.2425日ですから、1ヶ月は30.4369日です。

これらの値から、

30.4369/29.5306=1.0307

となり、太陽暦の1ヶ月は太陰暦の1.0307ヶ月に相当すると解釈できます。
従って、太陰暦に適切な間隔で閏月を挿入するという課題は『1.0307に整数(太陽暦上の月数)の数字を乗じ、新たな整数(太陰暦上の月数)にする』という数学上の問題に落とし込まれました。

具体的には、下記の等式が考えられました。

1.0307×228=234.9996≒235

これは、太陽暦の228ヶ月と太陰暦の235ヶ月がほぼ等しいということを意味します。
太陽暦の228ヶ月はちょうど19年、太陰暦の235ヶ月は19年と7ヶ月になります。

この結果から、太陰暦では19年に7回の閏月を設けることで、太陽暦の19年とほぼ一致するということが言えます。
この閏月の周期をメトン周期と呼び、紀元5世紀後半にギリシャ(アテナイ)の数学者メトンにより提唱されました。

メトン周期で話題になる19年は太陽暦の閏年の周期4年で割り切れないため、メトン周期を4倍したカリポス周期も考えられました。
メトン周期の4倍なので、太陽暦での76年間を太陰暦で76年間につき28回の閏月を挿入して近似するという手法です。
これらメトン周期もカリポス周期も、『3年に1回の割合で閏月を挿入する』という原始的な修正から比べると『およそ3年に1回の割合で閏月を挿入する』ということになりますね。

これらも太陰太陽暦の一種です。

4. 現代に残る太陰太陽暦

現代において閏月を考慮せず年間354日または355日の純粋な太陰暦はほぼヒジュラ暦のみとされています。
主にイスラム世界で慣習的に残っているだけではなく、サウジアラビアで公式な暦として用いられています。

対して、太陰太陽暦は旧暦としてイスラム世界以外にも広く慣習として残っています。
中国が古くから太陽太陰暦を用い、その影響をアジア一帯に及ぼしたため、アジアでは広く生活に旧暦が根ざすこととなりました。
中国で旧暦に基づく旧正月が2月中旬頃だった年の翌年には2月上旬になり、更に翌年には1月下旬になったものの次の年にはまた2月中旬に戻るといった現象は、3年につき1回程度の閏月を入れて太陽暦との誤差を修正しているためなのです。

純粋な太陰暦は狭義の太陰暦、太陰太陽暦は広義の太陰暦として考えられ、通常は太陰暦と言うと太陰太陽暦を表すことが多いです。
また、旧暦も太陰太陽暦を指す言葉として一般的です。
特にアジアでは現地の催事が旧暦に基づいた日程になっていることが多く、暦の知識は旅行の一層楽しむ材料になると考えています。

5. 暦のまとめ

最後に太陽暦・太陰暦・太陰太陽暦についてまとめておきます。

太陽暦の一種であるグレゴリオ暦が現在の世界の標準であること、純粋な太陰暦は主にイスラム世界で慣習的に使われて太陽暦とは毎年ずれが蓄積していくこと、太陰太陽暦は太陰暦と太陽暦のギャップを埋めるために考え出され旧暦として今も慣習に根付くことがポイントです。

 

 

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