世界遺産の登録基準 文化遺産(ⅰ)・(ⅱ)・(ⅲ)

毎年6~7月の世界遺産委員会の時期になると、世界遺産という言葉を頻繁に目にするようになります。
世界遺産という言葉自体が広く知られていることは疑いようもありません。

一方で、『世界遺産とは何か?』という基本的な事項については十分に知られていないように思います。
漠然と『歴史的に重要なもの』『素晴らしい建造物』などのイメージは湧きますし、誤りではありません。
しかしながら、もう一歩踏み込んだ理解は、訪問時の感動や感度を更に高めるために大いに役に立つと考えています。

NPO法人世界遺産アカデミー 認定講師として、世界遺産知識の普及ならびに旅行の質の向上を願い、世界遺産の登録基準について説明したいと思います。
今回は文化遺産の前半です。

【目次】
1.  文化遺産とは
2.  登録基準(ⅰ):人類の傑作
3.  登録基準(ⅱ):価値観の交流
4.  登録基準(ⅲ):文化的伝統・文明の証拠

1.  文化遺産とは

World Heritage Convention(世界遺産条約)の第1条において、文化遺産の定義として下記の3つが挙げられています。

・Monuments(記念物)
建築、記念的意義を持つ彫刻及び絵画、考古学的な性質の物件及び構造物、碑文、洞窟住居ならびにこれらの物件の組み合わせで、歴史上、芸術上または学術上、顕著な普遍的価値を有するもの。

・Groups of Buildings(建造物群)
独立または連続の建造物群であり、その建築様式、均質性または景観内の位置に拠って、歴史上、芸術上または学術上、顕著な普遍的価値を有するもの。

・Sites(遺跡)
人間による所産や人間と自然による所産及び考古学的遺跡を含む区域であり、歴史上、芸術上、民俗学上または人類学上、顕著な普遍的価値を有するもの。

上記の定義の範疇であり、且つ、これから示す登録基準のうち(ⅰ)~(ⅵ)のいずれか1つ以上を満たす不動産が文化遺産となります。
なお、文化遺産・自然遺産双方の登録基準を満たす世界遺産は複合遺産と呼ばれます。

2.  登録基準(ⅰ):人類の傑作

・定義
『人類の創造的資質を示す傑作』と定義されています。
視覚的にその価値が判りやすいことが特徴です。

・代表的な海外の遺産
インドの『Taj Mahal(タージマハル)』、中国の『The Great Wall(万里の長城)』などが該当します。
観光的な知名度で筆頭に上がるような遺産に認められています。

・代表的な日本の遺産
『法隆寺地域の仏教建造物群』『姫路城』などが該当します。
日本独自の美を表現する遺産に認められています。


3.  登録基準(ⅱ):価値観の交流

・定義
『建築や技術、記念碑、都市計画、景観設計の発展において、ある期間または世界の文化圏内での重要な価値観の交流を示すもの』と定義されています。
異なる文化圏をまたいだ文化伝播のみならず、同一文化圏内での文化交流も対象としていることが特徴です。

・代表的な海外の遺産
中国・カザフスタン・キルギスの『Silk Roads: the Routes Network of Chang’an-Tianshan Corridor(シルク・ロード:その始まりの区間と天山回廊の交易網)』やトルコの『Historic Areas of Istanbul(イスタンブルの歴史地区)』などが該当します。
古代から交易の要衝にあった都市などに多く認められています。

・代表的な日本の遺産
『古都京都の文化財』『古都奈良の文化財』などが該当します。
中国大陸から伝播した文化の跡を残す遺産に認められています。


4.  登録基準(ⅲ):文化的伝統・文明の証拠

・定義
『現存する、あるいは消滅した文化的伝統または文明の存在に関する独特の証拠を伝えるもの』と定義されています。
人類の化石遺跡なども含まれることが特徴です。

・代表的な海外の遺産
イタリアの『Archaeological Areas of Pompei, Herculaneum and Torre Annunziata(ポンペイ、エルコラーノ、トッレ・アヌンツィアータの考古地区)』やイランの『Persepolis(ペルセポリス)』などが該当します。
これらのような現存しないものの文明の証拠をよく残す遺産に認められています。

・代表的な日本の遺産
『琉球王国のグスク及び関連遺産群』『紀伊山地の霊場と参詣道』などが該当します。
文化的伝統を象徴する遺産に認められています。


 

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