世界遺産紹介 (31) バアルベック

世界遺産は1,000件を越え、『顕著な普遍的な価値』があると認められた人類共通の遺産です。
その中から、自分が訪れた遺産をご紹介します。

今回はバアルベックです。
遺跡として残るレバノンの世界遺産の中でも最大級の規模で、ローマ神話の神々を祀るいくつかの神域から構成されます。

【目次】
1. 遺産の概要
2. 遺産までの行き方
3. ギャラリー

1. 遺産の概要

遺産名 :Baalbek(バアルベック)
登録年 :1984年
保有国 :レバノン
遺産区分:文化遺産
登録基準:(ⅰ)人類の傑作、(ⅳ)人類史上代表的段階の建築・技術や景観

2. 遺産までの行き方

基本的には、深夜便の中東経由が便利だと思います。
成田など日本の主要空港からドバイやドーハなどに向かいましょう。

そこから更に、レバノンの首都ベイルートまで直行便で向かいます。
ドバイやドーハから4時間弱のフライトです。

ベイルート市内では、Colaのターミナルに乗合タクシーであるセルビスが多く停まっています。
バアルベック行を探し、乗合人数がいっぱいになると出発です。
出発までの時間は人の集まり次第ですが、集まって走り出してもバアルベックまでは2時間程度を要するという点は注意が必要です。

3. ギャラリー

紀元前15世紀頃から地中海東岸のレヴァント地方を中心に都市国家を築いたフェニキア人は、レバノン東部のバアルベックにも都市を建設しました。
フェニキア人自体は紀元前13世紀に猛威を振るった海の民の侵略やその後のアッシリア時代からアケメネス朝ペルシア時代までの非支配、更にはアレキサンダー大王の征服も経験しました。

アレキサンダーの征服以降の時代でも、アフリカ北岸における代表的な都市であるカルタゴは独自の繁栄を謳歌しました。
紀元前8世紀頃からの歴史を持つカルタゴも地中海へと勢力伸ばすうちにローマと衝突し、紀元前3世紀から紀元前2世紀にかけてのポエニ戦争で滅亡しました。
カルタゴ時代の遺構や征服された後にローマが開発が進めた跡は世界遺産に登録されています。

バアルベックにおいても紀元前1世紀のローマによる征服以降、開発が進みました。
ギリシャ神話のゼウス、ディオニュソス、アフロディーテにそれぞれ由来するローマ神話のユピテル、バッカス、ヴィーナスが建てられました。
標高1,100mを超えるベカー高原に位置するバアルベックは、それぞれの神を祀る領域に分かれています。

3神の領域のうち、3世紀頃に造られたヴィーナスの神域のみ完全に柵に囲まれて観光客が立ち入ることはできません。
そのため、まずはユピテルとバッカスの神域の前に広がるアクロポリスへ向かうことになります。
チケットセンターを過ぎてすぐに荘厳な入口が待ち受けています。
ローマ時代にバアルベックを参拝する人々を迎えたのでしょう。

ローマ化する以前はフェニキアの豊穣神であるバアルが祀られており、バアルベックの名前の由来となっています。
アクロポリスの遺構の背後には山々が見え、冬の時期は特にレバノンがフェニキア語で『白』を意味することが実感されます。

アクロポリス後方のユピテル神殿は1世紀中頃のローマ皇帝ネロの時代に完成したとされますが、現在は数本の高い柱の遺構のみを留めています。
時代が全く違うので単純比較はできませんが、当時はパルテノン神殿を上回る面積を誇っていたようです。
現在はコリント式の柱6本のみが残っていますが、自身が訪れた2019年1月時点では、残念ながら周囲が鉄の足場で固められてしまっていました。

バッカスの神殿は2世紀頃に完成したもので、バアルベックの中で見られるグレコ-ローマンスタイルの建造物としては最大です。
柱が6本のみを残されていたユピテル神殿とは異なり、現在も神殿としての原型が十分に判ります。

朝に来ると高台から見下ろす方向はやや逆光気味になります。
気にされる方は午後の訪問に調整した方が良いでしょう。

酒神バッカスは、ギリシャの都市国家テーバイの王女セメレとユピテルの間に生まれました。
ユピテルの妻ユノーの激しい嫉妬に起因する厄災や放浪を乗り越え、バッカスは葡萄からワインを製造する方法を見出しています。

余談ですが、紀元前5世紀から紀元前4世紀に生き医学の父とされるヒポクラテスは、ワインを疲労や解熱に効く薬だとしていました。

4世紀末、ローマ帝国がキリスト教を国教としてからはローマの神々を祀るこれらの神殿が増築されることはなくなりました。
以降のイスラム化の歴史の中では要塞として使用もされました。

バッカスの神殿には大きな柱がもたれかかっています。
まるで神殿としての機能が顧みられることがなくなった歴史を表しているように感じました。
実際、オスマン帝国の支配に入って以降、その存在は忘れられたのだそうです。

首都ベイルートから乗合で訪れることができるため、利便性は高いです。
大規模なローマ時代の神殿が見られる場所は多くありません。
バアルベックで古代ローマを感じ、ベイルートで中東のパリを堪能し、更にビブロスなどの世界遺産を訪れる経験も良いと思います。

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