世界遺産紹介 (29) ムザブの谷
世界遺産は1,000件を越え、『顕著な普遍的な価値』があると認められた人類共通の遺産です。
その中から、自分が訪れた遺産をご紹介します。
今回はムザブの谷です。
ビザ取得が面倒な国として知られますが、その苦労が吹き飛ぶ素晴らしい光景です。
【目次】
1. 遺産の概要
2. 遺産までの行き方
3. ギャラリー
1. 遺産の概要
遺産名 :M’Zab Valley(ムザブの谷)
登録年 :1982年
保有国 :アルジェリア
遺産区分:文化遺産
登録基準:(ⅱ)価値観の交流、(ⅲ)文化的伝統・文明の証拠、(ⅴ)伝統的集落や土地・海上利用または人類と環境の交流
2. 遺産までの行き方
基本的には、深夜便の中東経由が便利だと思います。
成田など日本の主要空港からドバイやドーハなどに向かいましょう。
そこから更に、アルジェリアの首都アルジェまで直行便で向かいます。
イメージでは近いように思ってしまいますが7時間くらいのフライトで、決して短くありません。
便数が多いという意味では、パリ経由も有力な選択肢になります。
フランスがアルジェリアの旧宗主国であった歴史もあるため、パリからアルジェの直行便は本数が多いです。
首都アルジェからは南方の位置するガルダイヤまで、1時間強のフライトです。
3. ギャラリー
ムザブの谷は、ガルダイヤやブーヌーラなどいくつかの城塞都市クサールが点在する地域です。
それぞれのクサールは小高い丘の上に立つミナレットを中心に同心円状に広がり、周囲を城壁が囲んでいます。
クサールを遠くから眺めると、ミナレットを頂点としたその構造を把握することができます。
茶色一色ではなく、ナツメヤシの緑が景観のアクセントになっていますね。
クサール内を歩くには、現地住民のガイドを帯同することが義務付けられています。
フランス語対応のみなので言っていることは全く解りませんでしたが、入り組んだ道を自力で迷わずに歩くことは不可能であるため、その意味でガイドは必須です。
解らないながらも頷きながら聞いていると、ガイドの説明にも熱が入ってきました。
ムザブの谷に住む人達の生活は、その他の地域に住むアルジェリア人にとっても珍しく、伝統的なものなのだそうです。
一方で、各戸の屋根にはBSアンテナがびっしりと並んだ様子が対照的です。
また、クサール内には私設で博物館のようなことをやっている現地住民の方もおり、SNSアカウントの宣伝なども受けます。
観光客を相手にしているそのような住民は、流暢な英語を操ります。
クサールは限られた出入口を除いて外部と隔絶されており、内部は細い道が張り巡らされています。
ところどころに井戸があり、地下水を汲み上げているようです。
井戸を覗くと、深さはそれほどでもありません。
クサールは小高い丘に形成されているために井戸は深く掘らないと水が出ない気がするのですが、実際にあちこちの井戸を覗いても極端に深そうなものはありませんでした。
これらのクサールは、ウマイヤ朝により迫害を受け移動を余儀なくされたイスラム教イバード派の人々により改宗したムザブ族が11世紀以降に造ったものです。
その灌漑技術を活かして掘った井戸の周囲に、店や広場が形成されました。
広場には女性も多く見かけますが、白いアバヤで片目以外の全身が覆われたその様子は独特です。
エル・アーティフにある高台の墓地から見渡す中庭も素晴らしいです。
まさに一帯が谷であるということが判る景観ですね。
景観の素晴らしさももちろんなのですが、中庭にあるシディ・ブラフムモスクはル・コルビュジエの設計で知られています。
非常に質素ですし、その旨を記載した看板なども無いために言われないと判りません。
幸いにも同行ガイドのフランス語説明の中でもル・コルビュジエだけは聞き取れるため、素通りすることはないでしょう。
シディ・ブラフムモスクの窓の設計が、ル・コルビュジエがフランスに建てたロンシャンの礼拝堂のモデルになっています。
こうした、遺産間の横の連携が世界遺産の面白さですね。
漠然と危険なイメージがあるアルジェリアですが、観光客が珍しいのか現地の方は非常に親切です。
その点でも訪れやすく、少なくともムザブの谷の近辺では夜の散歩も可能なほど安全だと感じました。